細野克博助教がJRPS(日本網膜色素変性協会)の第16回研究助成を受賞されました。川崎医科大学で授賞式が行われました。
第16回研究助成を受賞して
細野克博(浜松医科大学眼科学教室)
受賞テーマ:「日本人網膜色素変性患者の遺伝子診断システムの構築」
網膜色素変性症(RP)は網膜で働いているタンパク質の遺伝子異常により起こると考えられています。これまでに55個の原因遺伝子が報告され、欧米の先進国では原因の判明した患者が増えています。この疾患の頻度は4000~8000人に1人と言われ、遺伝性と言われていますが、わが国では親戚を見渡しても患者は本人のみという「孤発例」が、患者の半分以上を占めます。孤発例と、兄弟姉妹に患者の出る常染色体劣性遺伝型(ar)RPを含めると80%を超え、RPの大半を占めます。孤発例や、arRP患者に対して、これまでに報告された原因遺伝子を全て検査しても、わが国ではごくわずかな患者さんでしか原因がわかりませんでした。
私たちの研究グループは、全国の主要な医療施設を通して、孤発例を含むarRP患者100名の協力を得ました。インフォームドコンセントを得た上で、血液からゲノムDNAを抽出しました。arRPの原因遺伝子として最近欧米で報告されたEYS遺伝子の遺伝子検査を行いました。その結果、100名のRP患者さんのうち、原因が確実な異常を認めたのが18名(18%)、原因の可能性がある患者を含めると25名(25%)に異常を検出しました。我が国の80%を占める患者の18%~25%もの原因が判明するということは、単純に計算すると、すべてのRPの14%~20%にEYS 遺伝子の異常が存在していることになります。これ程の頻度で原因変異が見つかるのであれば、遺伝子検査に基づく遺伝相談が可能となります。
今後はEYS遺伝子だけではなく、他の原因遺伝子についての遺伝子検査も計画しています。日本人RP患者に認められる原因遺伝子の同定を行い、日本人固有の遺伝子変異をデータベース化することで、日本人RP患者を更に効率よくスクリーニングできる遺伝子診断システムの構築を目指しています。原因の遺伝子異常がわかるとどんなことに役立つでしょうか。まず、疾患のメカニズムの解明が可能となります。どんな薬物が有効か、特異的な治療法の研究も可能となるでしょう。さらに、欧米で始まっている遺伝子治療など、新たな治療法に道を開く可能性が出てきます。